永遠の少女とマジョリカマジョルカのおはなし
「マジョリカ マジョルカ!」
これは魔法の言葉。
美の女神が、美しさを求め自力で手に入れた鳥にかけた秘密の呪文。
マジョリカマジョルカというブランドのコンセプトはエンブレムにもなっているそれだ。
私はこのマジョリカマジョルカというブランドがだいすきだ。
パッケージデザイン、ネーミング、なによりも世界観。
すべてが私の「化粧」という概念を形作る要素の核になっている。
マジョリカマジョルカがだいすきだから、「だいすきだ」っていうだけの内容です、今回。
* * *
田舎のドラッグストアにもマジョリカマジョルカが並ぶようになったのは、たぶん2005.6年くらいだったと思う。
当時私は小学校高学年で、お洒落やコスメが少しだけ身近になってきて、クラスの女の子たちはこぞって色付きリップを筆箱に隠していた。
私は陽の当たらない席の生徒だったので、ニベアの色付きリップ(クラスの日向にいる子ほどメイベリンのベイビーリップを買い与えてもらっていたのをよく覚えている)を親に内緒で買って、筆箱に忍ばせていた。
当時小学生の私からすれば、女子高生のお姉さんたちなんていうのはキラキラギラギラの、世界でいちばん美しくて強い存在で、お姉さんたちのポーチから流行は生まれると信じていた。
私の身近な「お姉さん」も例にもれずきらきらと輝く女子高生で、かぼちゃパンツみたいな形の大きなポーチにぎゅうぎゅうにコスメがつまっていた。
100均のアイライナーとアナスイのチークが同居していたり、チャコットのバカデカいパウダーがごろんと入っていたり、ニベア缶くらいのサイズのヘアワックスが入っていたり……
様々な記憶があるが、しかし確かに「お姉さん」たちの強力な味方こそ、安くて可愛いマジョリカマジョルカだったはずだ。
正味、私が実際にユーザーだったわけではないから全国のお姉さんたちがどうだったかは解らないけれど……
(身近なお姉さんはポーチに、なぜかラップで包んだラッシュのミツバチマーチの角切りを入れている変なひとだったので参考にするのは間違っているかもしれない……それともそういう流行があったんですか!? 教えて!)
でも私は憧れの、輝くお姉さんたちの、その、ともすれば海賊の宝箱より魅力的な化粧ポーチの中身の大多数を占める、キッチュでキュートでちょっと毒のあるマジョリカマジョルカの虜になったのだった。
なかでも印象的なのは2010年発売のマジョロマンティカ。
マジョリカマジョルカ初のフレグランスアイテムで、いまなお恋コスメとして絶大の人気を誇る香水。
赤い小瓶に入ったとろとろの香水を魔法のロッドみたいなスパチュラで肌に落とすあの感覚……!
たった一滴で、あなたの中に眠っていた“女の子”を呼び覚ます、甘い甘い魔法の媚薬。
永遠に「女の子」でいたいのなら、この赤い瓶をいつもそばに……
……アカデミーキャッチコピー賞受賞だ、こんなもん。
永遠の少女性、恋の媚薬、赤い瓶……エッセンスとテーマとモチーフの合致。
超どうでもいい思い出語りをするなら、マジョロマンティカを初めて手にしたのは中学生当時、憧れていた先輩に誕生日プレゼントでいただいた思い出……
毎朝ハンドタオルに一滴垂らして学校に持って行った……そんなマジョロマンティカみたいに甘酸っぱい経験もあったな!!! ガハハ!!
中学生のころにはズップリオタクだった私にとって、マジョリカマジョルカのコスメは「たしかに恋だった(※同人向けお題配布サイト、永遠のエモ)」と並ぶオタク心をくすぐる文字羅列の宝庫だった。
なぜなら、マジョリカマジョリカのコスメそれぞれにつけられた色名がとても凝っていたからだ。
「モノノ怪」に芸術を学べば薬売りさんと同じラベンダーカラーのネイル(アーティスティックネールズ VI311 魔術)を買い、
WILD ADAPTERに人生狂わされれば、ネイル(アーティスティックネールズ BL501 海の底)を買い、
東京バビロンに執着の意味を教えられれば、アイシャドウ(シャドーカスタマイズ SV821 東京の夜)を買い、
椿屋四重奏以外の曲を聴く暇がないほど椿屋を聴けば、アイシャドウ(シャドーカスタマイズ RD422 熱情)を買い……
うるさい!!!!!!!
私のことを気持ち悪いと思うか!?!?
「たしかに恋だった」と「マジョマジョのコスメラインのネーミング」で同人活動をしたことがない者だけが私に石を投げろ!!
さもなくばもう少しだけこの昔語りにつきあってくれ。
マジョリカマジョルカ史上最大の炎上とも言えた、路線変更の極致広告が発表されたのは2017年。
簡単に言うと、それまでのゴシックであったり、カラフルな尖った広告から、インスタグラムユーザー向けの「ターゲット層」に合わせた広告というニュアンスで、いままでとは全く違うタイプの広告を打ち出したという一件だ。
それまでのマジョリカマジョルカの世界観はと言えば、悪く言ってしまえば過剰装飾、よく言えばマザーグースの女の子の構成要素……
マジョリカマジョルカが追いかけるのは流行とコンサバではなく、個性派を恐れないおとぎ話の世界観。
たしかにあの広告をみたときの衝撃たるや……!
(気になる方は調べてみてくれ。「マジョマジョ 広告 炎上」とかでたぶん出る)
あの衝撃の正体はどちらかというと「私たちを振り落すな」だといまになれば思う。
白雪姫、人魚姫、アリス、トランプ、サーカス、お砂糖、媚薬、
そういう「永遠の少女性」の魔法をまだ解かないで。
魔法少女が変身コンパクトをかばんに忍ばせるように、無敵の魔法道具がポーチの中にあることで日々の社会を生き抜かせてくれよ。
少女性はトランキライザーなんだよ。
そういう切実な「おいていかないで」の感情の末路だった。
「マジョリカマジョルカ」と唱えて、私が私のなりたい私になるための魔法をかけて欲しいのに、打ち出されたキャッチコピー
私にもかかる魔法
最初からそうだし、私「に」かかる魔法だよ!!!!
にも、ってなに!! いまはアタシとアンタの話をしてんのよ!!
他の女の名前出さないで!!!
炎上した件を語りたいわけではないので、話を戻す。
私にとってマジョリカマジョルカは永遠の魔法。
精神と身体の年齢が見合わなくなって夜中に泣いてしまっても、マジョリカマジョルカは永遠に、私が望む限り、少女でいることを肯定してくれる。
レースとリボン、ピンクもすきだけど赤がすき、くまのぬいぐるみもすき、うさちゃんもすき!
ドールになりたいし、お姫様にも女王様にもなりたいし、オデットにもオディールにもなりたい!
マノンレスコー、ファムファタル!
毒林檎色のリップを塗りたい日もある、かすみ草色のネイルに爪先を染めたい日もある。
そういうおとぎの国を生きたい心を、まだ捨てられないし、捨てたくない。
顔に見合わなくても、上背が伸びても、年々指先から若さが失われても、
ずっと、もっと、永遠に、少女でいたい。
今日も明日もそう呟いて、重い鉄製のドアを開いて、私は会社に向かう。
めちゃどうでもいい話ですけど、
今年の冬、マジョリカマジョルカのリップエッセンスバームがいちばん唇に効きます。
よかったら買ってね。